それは窓です。キッチンやトイレなどの生活設備はいうまでもありませんが、その前に、十分な光を取り入れ、外を見ることのできる「窓」が必要です。蔵にも痛風、換気のための小さな窓はありますが「蔵」に採光のための大きな窓を設けた途端、シェルターとしての性能は低下してしまいます。窓を作ることによって最高の面では快適になりますが、窓は、ガラスがあっても究極的に壁にあいた開口として、そのままでは住まいに弱い部分を作ってしまうのです。その結果、熱、音、火をはじめ空き巣狙いなどの犯罪すらこの弱い部分である「窓」を通過する可能性が出てきます。壁や屋根、床などの性能が良ければ良いほど窓の弱さは際立ってきます。その弱さを克服するところから、「窓ガラスの性能」に期待する社会的ニーズが生まれてきたと言えるのです。

 

地球温暖化が世界で問題となっています。ですので、私たちも産業革命以後続けてきたライフスタイルを見直す時期に来ています。住まいにおいては、住宅そのものの長寿命化による廃棄物の削減と同時に、日常エネルギーの削減を目指さなければなりません。そのために、窓は壁の弱い部分としての開口ではなく、ガラスによる採光・透過性という最大の特徴を保ちながら、性能を壁に近づける必要があるのです。窓を改めて考えてみる事は、すなわちライフスタイルを見直すことにもつながります。窓ガラスの高機能化への配慮は、大きく、透明で開放的な窓を作りながら土蔵の持つシェルターとしての優れた性能を両立させる努力なのです。

 

機能としての窓や窓ガラスの存在のほかに、窓にはもう一つの大きな役割があります。それは、住まいの表情を演出する役割です。外装仕上げ材や屋根の形は建築の表現に大きな影響を与える重要な要素ですが、窓は玄関のしつらえと並んで、住まいの内側に暮らす、「家族」をも表す役割を与えられた部位と言えるでしょう。窓の位置や大きさ、デザインなどによってそこに暮らす家族と地域の関係がうかがえます。かつて「緑側」を介して地域とつながっていた日本の住まいの文化は、都市部では失われつつありますが、それに代わって窓の役割が大きくなってきました。言うまでもなく窓のプライバシーと防犯は考慮すべき事柄ですが、環境に対して閉じた住まいというのは居心地の悪いものではないでしょうか。窓のデザインは個々の暮らしの表現として街並みを形作ります。街並みを形づくるそれぞれの住まいが環境とかかわり、その内と外の接点に、窓ガラスがあります。

 

現在、さまざまな高い機能を持つ窓ガラスの普及で、その昔、紙や木が板ガラスに置き換えられた時に匹敵する変化を私たちの住まいにもたらす時代が来ているのです。環境と住まいを守る、それが今後も窓ガラスの使命なのです。